TCニューズレター(紙媒体&Web)2016年3月号を発行いたしました!(「知の探索」でトラップ回避でイノベーションを!、”ロサダ比率”、セミナー情報他)
紙媒体でのニューズレター
『冨田賢の新規事業のための賢’s 情報Station』
の2016年3月号を発行いたしました!
巻頭特集:『「知の探索」を重視して、
「コンピテンシー・トラップ」を回避しよう!』
当社は、電子メールのメールレター(配信申込とバックナンバーはこちら!)に加え、
毎月1回、紙媒体で4ページのニューズレターを発行しております。
巻頭特集や、セミナー開催報告・開催情報、
冨田賢からのメッセージを掲載しています。
画像や写真満載です。是非、ご覧ください♪
★2016年3月号のニューズレターのPDFファイルは、こちら!TC_Newsletter_201603
なお、コンサルティング先企業の皆様には、印刷業者
で印刷したものを、5~10部ずつ、
ご郵送させていただいております。
<ニューズレターの中身の画像も掲載します!>
「知の探索」を重視して、
「コンピテンシー・トラップ」を回避しよう!
〜イノベーションのためには、緩やかな人間関係も有効!〜
今月は、「オープン・イノベーション」(外部企業が開発したものを取り込むことによるイノベーション)について、お話ししたいと思います。
- オープン・イノベーションへの理解を深めよう!
オープン・イノベーションは、ヘンリー・チェスブロウ(発表時、ハーバード大学・准教授。現在、UCバークレー教授)によって2003年から提唱された「自前主義で、自社内での研究開発で生み出されたものだけを経営資源として利用するのではなく、外部企業が生み出した技術などを取り込んで利用していく考え方です。(参考文献:Henry Chesbrough (2003)Open Innovation, Harvard Business School Press(邦訳『オープン・イノベーション』産業能率大学出版部、2004))
対照となるのが、クローズド・イノベーション(自前主義)となり、新製品開発や事業展開を自社の内部で生み出すものにのみ頼るやり方です。もともと日本企業は自前主義が強いですが、これは、NIH症候群(Not Invented Here、自社で開発したもの以外は意味がない!?)としても指摘されています。
1世紀も前に、経済学者のシュンペーターは、イノベーションの源泉は、「既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ」(New Combination、新結合)であると言っているわけですが、新しく知を組み合わせるにあたり、それを自分たちで生み出すか、外部から取り入れていくか、どちらなのか、ということになります。
- 「知の探索」と「知の深化」の両面がある!
イノベーションを生み出すためには、自社の既存の領域だけにとどまらず、知識の範囲を広げる「知の探索」(Exploration)と、一定の分野で知を継続して深める「知の深化」(Exploitation)の2つがあります。
知の範囲を広げる!→「知の探索」Exploration
一定分野で知を継続して深める! →「知の深化」Exploitation
これは、スタンフォード大学のジェームズ・マーチの1991年の有名な論文(March, J. 1991. “Exploration and Exploitation in Organizational Learning,” Organization Science, vol.2:71-87.)で主張されて以来、定番の考え方となっています。
- 「知の探索」と「知の進化」のバランス
企業が中長期的にイノベーションを生み出していくためには、「知の探索」と「知の進化」のバランス、すなわち、Ambidexterity(両利き)が重要です。
イノベーションに長けた企業ほど、その2つを両立していることが研究成果として出ており、ミシガン大学・ゴータム・アフージャとスタンフォード大学のリタ・カティーラが2002年にAOM(Academy of Management)に発表した論文で実証しています。世界のロボット企業124社の特許データから各企業を計測し、「知の探索」と「知の深化」を同時に実現している企業ほどイノベーティブな製品を生み出しやすいとしています。(参考文献:入山(2016))
Katila, R. & Ahuja, G. 2002. Something Old, Something New : A Logitudinal Study of Search Behavior and New Product Introduction. Academy of Management Journal, vol.45 : 1183-1194
- 「コンピテンシー・トラップ」に陥るな!
「知の探索」と「知の進化」のバランスにおいて、企業組織は、どうしても、「知の深化」に偏り、「知の探索」を怠りがちであることも、経営学で言われています。
つまり、いま業績のあがっている分野の「知の深化」は自分たちの知っている領域であるため、効率がよいわけですが、他方で、「知の探索」は、手間やコストがかかるわりに、収益に結び付くかが不確実であるため、敬遠されがちとなるのです。「知の深化」への傾斜は、短期的な効率性はよいものの、それだけにとどまっていると、結果として、知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞しまいます。これは、「コンピテンシー・トラップ」と呼ばれます(参考文献:入山(2016))。
次の図で、最適な「知の探索」と「知の深化」のバランスが、青色の線だったとしても、どうしても、「知の探索」よりも、「知の深化」に偏ってしまうため、赤色の線まで、角度が低くなってしまいがちなのです。これは、かつて、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が主張して「イノベーションのジレンマ」(大企業は、既存の製品や顧客を持っているがゆえに、破壊的なイノベーションを生み出しにくい)の現象の原因でもあると言えます。
- IoTにおいても、技術の組み合わせが重要
新規事業立ち上げのメイン・フィールドの一つであるIoT(Internet of Things)においても、今すでに自社が持っている技術をいかに他社の技術と組み合わせて、使っていくかがポイントです。IoTにおいて、技術やアイディアを外部に求めた事例としては、ソニーが出資しているスマートロック・デバイスの「Qrio(キュリオ)」の事例がありますが、これも、組み合わせにより速い開発が可能となり、設立から1年かからずに、開発完了、販売実施、売上獲得が実現されています。
- 弱いつながりの人間関係と創造性
では、オープン・イノベーションを推進するためには、どうしたらよいのでしょうか?
その一つが、弱いつながりでもよいので、多くの人間関係を持つようにする!ということです。皆さんは、「強いつながりの人間関係」と「弱いつながりの人間関係」のどちらが、創造性を高めるためには、重要だと思われますか?
エモリー大学・ジル・ペリースミスの2006年の論文では、米国の某研究所96人を分析対象にして、上司が評価する各研究員の創造性スコアとの関係の統計分析をしていますが、「弱い人間関係を多く持つ研究員のほうが、創造性スコアが高い」との結論となっています。「付き合いの長さで測った強いつながりの人間関係を多く持つ人は、むしろ創造性が落ちる」という結果となっています。
Perry-Smith, J.(2006), “Social Yet Creative : The Role of SociaI Relationships in Facilitating Individual Creativity,” Academy of Management Journal, vol.49:85-101.
- 弱いつながりを多く持つ人は、創造性を高められる!
その他の研究でも、ケンタッキー大学・ダニエル・ブラスらの2009年の論文では、中国のハイテク企業151人の従業員の人間関係のデータを用いた統計分析をしているのですが、やはり、 「弱いつながりをある程度の数まで持った従業員のほうが、創造性が高まる」との結論となっています。 これらのことは、早稲田MBA准教授の入山章栄さんの本にて、興味深く、掲載されています。
Jing, Z. et al. 2009. Social Networks, Personal Values, and Creativity : Evidence for Cuvilinear and Interaction Effects. Journal of Applied Psychology, vol.94:1544-1552.
交流会参加などの多く行い、異業種や異質な人と多くネットワークを作っていくフットワークが軽い人のほうが、“新しい知の組み合わせ”を試し、創造性を高めていけると言えます。
私自身も、約7年で8500枚以上の名刺交換をしてきており、深い強いつながりの人間関係だけでなく、弱いかもしれないが、多くのつながりを作っています。このことは、アライアンスによる新規事業立ち上げのアイディア出しや事業構築、そして、事業展開の推進において、とても役立っていると思います。
- 「コンピテンシー・トラップ」に陥らないために、「知の探索」を大切に!
先に述べましたように、企業はどうしても、短期的な効率や進めやすさ、固定概念もあって、自分たちの領域での「知の深化」に偏りがちです。中長期的なイノベーションを生み出していくためには、「オープン・イノベーション」を重視し、そして、自社の「知の範囲」を広げるべく、「知の探索」に力を入れていくことが大切です。
その際には、弱くてもよいので、できるだけ多くの外部とのつながりを作っていくことが有効ですので、実践してみましょう!
【Working Space】
「悲観脳」と「楽観脳」、そして、「ロサダ比率」
NHKで放送されている白熱教室でのエレーヌ・フォックス教授(オックスフォード大学感情神経科学センター)の「悲観脳」と「楽観脳」の講義、興味深く、観ています。
物事は、どんなことでもプラス(ポジティブ)にも、マイナス(ネガティブ)にも捉えることができるわけですが、どのように捉えるかは、先天的な面もありつつも、後天的な癖・習慣というものもあるようです。
ちなみに、組織内において、ポジティブなことを言い合うこととネガティブなこと(ちょっと厳しい指摘・指導)を言い合うことの黄金比率(「ロサダ比率」と呼ばれます)は、心理学者(数学者でもある)のロサダ氏によって、研究・証明がなされたように、「2.9013:1」(おおよそ、3:1)であるとされています。
研究によっては、6:1以上のほうが良いともされており、逆に、11:1を超えて、ポジティブなことだけを言っていると、組織のパフォーマンスが下がる、ということも実証されています。ロサダ・ラインと言われるものです。これは、組織だけでなく、個人でも当てはまり、ロサダ氏の研究によってポジティブでうまくいっている人とネガティブでうまくいっていない人の明確な差が発生するラインが発見されているわけです。
私は最近、脳科学や心理学に興味を持っていますが、いろんな本やWeb情報も出ていますので、皆さんも、是非、活用してみてはどうでしょうか。