第4回オープン・イノベーションに役立つCVCの活用法
CVCファンドを有することのメリット
CVCファンドを設立・運営することのメリットとしては、次のようなことがある。
- 有望なベンチャー企業と付き合えるようになる
投資をすることで、関係作りができるということがまずは大きなメリットである。有望なベンチャー企業は、昨今、投資をしてくれない大企業となかなか面談などをしてくれなくなってきている。他方、ベンチャー企業は、一般的には、資金が不足していることが多いため、投資をすることは歓迎される。出資によって、技術開発面等での連携へのきっかけを作るとともに、投資先企業としてグリップしていけるようになる。
- ベンチャー企業の情報が集まるようになる
CVCファンドを設立することによって、ベンチャー企業に投資するというメッセージを出すことができるようになる。すなわち、アナウンスメント効果がある。事業会社の場合、会社名に、キャピタルやインベストメントといった名称が入っていないため、投資する意向があることのメッセージが、ファンドを作らないと世の中に伝わらないということがある。そして、まとまった投資資金があるところには、投資案件の情報が集まると言える。
- 権限移譲による意思決定の迅速化
日本の大手企業の場合、ベンチャー企業への投資を行って、オープン・イノベーション戦略を実行する場合、最大の課題となるのは、社内稟議などにより、時間がかかりすぎ、機動性が損なわれるということである。大手企業の経営会議などで、相対的に規模が小さいベンチャー投資案件のことを検討していては、組織としてコストがかかりすぎるということもある。ファンドを設立し、ベンチャー投資案件のことは、ファンドの投資委員会に権限移譲することによって、意思決定を迅速化することが可能となる。
- IR効果がある(株価の向上)
会社全体として、利益を内部留保として、貯めているだけでなく、新しいビジネス・チャンスを獲得するために、外部に投資している企業のほうが、株式市場(投資家)からの評価が上がる。CVCファンドを設立し、CVC投資を行うことをプレスリリースしただけで、株価が上昇し、PBR(株価純資産倍率)が向上した企業の事例もある。CVCファンドの設立は、株価対策にもなるのである。
冨田 賢 (とみた さとし)
Satoshi Tomita, Ph.D.
株式会社TCコンサルティング 代表取締役社長
博士(政策・メディア)